この税理士さんは私が25歳の時に出会いました。
勤め先の会社に出入りしていた税理士さんで、初老というぐらいの年格好、背が低く、メガネをかけていて、愛想はよくないし、難しい人だなというのが最初の印象でした。
しかし、あるとき私が簿記の勉強をしたいと思っていた頃に、税理士さんとの待ち合わせの時間に社長が遅れるということで、「先生の相手しといて!」というミッションを与えられてしまいました。仕方ないので、その小難しい税理士さんにお茶を出したついでに、社長が遅れるということや天気の話等をしましたが、話が続かず。必死に会話を探していたところ、簿記の勉強を始めたという話をして、参考書のオススメを聞こうかなと軽い気持ちでその話題を振ってみたところ…意外な程食いついてきて真面目に誠実に的確なアドバイスを下さいました。
聞けばその税理士さんは若い人を育てるのが大好きだそうで、ご自身の事務所にも毎年若い人を3人入れて、これまでに何人も独立させてきているのだそうです。
現在は事務員さん、アルバイト、税理士試験挑戦中の方とご本人を入れて7名でやっているそうなのですが、税理士見習いの方が大きく平均年齢を下げてくれているが、自分と事務員さんが大幅に平均年齢を上げているので、平均年齢を出した時にそれに該当する人がいないんだと笑いのネタとしてのお話も持っておられて、少し会話しただけで、小難しい人という印象はガラッと一変しました。
面白おかしく冗談もお話下さる反面、勉強するならこういったことから始めたほうがいい、「君が2級を目指しているのなら、3級なんて意味もないし受験するなんてお金の無駄なんて言われているけど、試験に慣れる、自信をつける、まず一歩目として挑戦してみる、というような気持ちで受けてみるのも悪くないし、馬鹿にされるような事ではない。自分の力をみて受験する級を選ぶのが一番だよ。分からないことがあったら、僕は絶対に笑ったりしないから何でも聞いてください。」ととても気さくに真剣に相談に乗ってくださいました。
気づけば社長がいつの間にか帰ってきていて、盛り上がってるからと見守ってくれているほどお話していました。
こんなにお話をしてしまったことだけでも驚いていたのに、先生の事務所と私の勤務先が近いこともあってか、その日のうちに事務所にある参考書があったからどうぞと持ってきてくださいました。
それから、先生と私の個人的なお付き合いも始まりました。
よく聞けば、先生が無愛想に見えたのには理由があって、愛想がないのはメガネをしているが、そんなにはっきり顔が見えないのと、「耳が遠くてね、左側から声をかけられたらそんなことはないんだけど、右側の時は聞こえてなくて無視みたいになってしまっているときがあるかも知れない、気を悪くさせてしまってごめんね。」と言われました。私には初老という感じに見えたのですが、先生はもう70歳に近いお年でとてもびっくりしました。
先生曰く、ご自身が若く見られるのは、若者を育てていて若者に触れているからだとおっしゃっていましたが、私には違うと思いました。
この先生が若いのは恐ろしい程の向上心だと思いました。
私が、先生におんぶにだっこでテキストも用意してもらって、教えてももらって無償というのは気が引けますと申し出たところ、私が得意なことは何かと聞かれ、幼少期より競泳をしていて、ダイビングもダイブマスターでインストラクターもしていたことがあります、と答えたら意外な答えが返ってきました。
「ちょうど良かった!僕泳いでみたいと思っていたんだ。僕は君に簿記の勉強を教えるから、君は僕に水泳を教えてくれないか。」と言われました。
今まで全く泳いだことがないのに70歳を目前にして、人生でやり残したことと言わんばかりに泳ぎたいと言われて面食らいましたが、他に私に出来ることもなかったので了承し、先生に泳ぎを教え始めました。
先生の水着姿を見たときも衝撃でした。お年の割にというのは失礼とも思うぐらい鍛えられていました。泳ぎに対しても意欲的で、始めはカナヅチ?と思うぐらい5mも泳げなかったのですが、肩を柔らかくするストレッチを毎日してください、と言えば、1週間後には欠かさずやっていたのが分かる成長ぶりでした。
そうこうして先生は9ヶ月でクロールをマスターし、私は6ヶ月で簿記2級に合格し、まさしくウィンウィンな結果となりました。
今は平泳ぎを教えており、最終目的はバタフライだそうですが、いつか達成してしまうのでは?と思います。
私は自分で確定申告も出来るようになり、かなり税については教え込んでいただきました。私がもし他業種で起業するとしたら、こんなに親身で真面目な先生にお願いしたいなと思います。