私は某地方都市の小さな会社で10年ほど総務を担当しています。
毎年11月頃になると忙しくなるのが「年末調整」。いわゆる会社が従業員に代わって行う確定申告です。従業員は年に1回のことなので、必要添付書類も記入方法も忘れてしまい、何となく昨年の書類の通り書いて提出・・というのが多いですが、それ故、所得税が安くなる条件がありながら申告しないケースも少なくありません。そのような事例にこちらで気が付いた時は「これを申告すれば税金が戻ってきますので書類を持って来て下さい」とお願いします。その中でも特に還付額が多かった例です。
Aさんは妻と長男と両親の5人家族、このうち両親と長男が扶養親族です。中でも長男は重度の知的障害で療育手帳を受けているとのこと。ところがAさんは今まで長男の障害者控除の申告をしていなかったのです。
本人や扶養親族が所得税法上の障害者に当てはまる場合には、一定の金額の所得控除を受けることができ、これを「障害者控除」といいますが、Aさんの長男は身体障害者や精神障害者に交付される障害者手帳は持っていないため、該当しないと思っていたそうです。
療育手帳は、知的障害者又はその保護者の申請により、児童相談所又は知的障害者更生相談所の判定結果に基づいて都道府県知事が交付するものです。
国税庁HPでは「所得税法上、児童相談所、知的障害者更生相談所、精神保健福祉センター若しくは精神保健指定医の判定により知的障害者とされた人は障害者とされ、また、その障害の程度が重度と判定された人は、特別障害者に該当する」とされています。療育手帳には、障害の程度が重度の場合は「A」、その他の場合には「B」などと表示することになっています。つまり療育手帳の交付を受けている人は障害者に該当し、障害の程度が「A」と表示されている人は特別障害者、「B」と表示されている人はそれ以外の障害者として障害者控除の適用を受けることができるのです。
Aさんの長男は「A」の表示がある療育手帳を受けていたので「特別障害者」、加えてAさんと同居しており「同居特別障害者」に該当するので、75万円の所得控除が受けられるのです。
仮にAさんの控除前の所得金額を500万円とすると
控除前の税額 5,000,000×20%−427,500=572,500円
控除後の税額 (5,000,000‐750,000)×20%―427,500=422,500円
差額 572,500-422,500=150,000円 (所得税速算表より)
かなり大きな金額になります。またAさんの長男は障害判定が10年近く前とのことでした。税金を多く申告した場合、過去5年分については更正の請求により納めすぎになっている所得税の還付を受けることができます。Aさんの場合でも、合わせて5年分遡って障害者控除が受けられます。Aさんには、過去5年分の源泉徴収票と療育手帳の写しを税務署に持参し、更生申告をするように伝えました。結果5年分の納め過ぎた税金も還付され、結構な金額になったようでAさんには大変感謝されました。
Aさんに限りませんが、意外と「障害者控除」は知られていないようで、従業員の話を聞いていると、実は本人や扶養親族が障害者手帳の交付を受けているが、控除申告はしていないという事例が結構あります。障害者控除は重度に該当しない場合でも27万円の所得控除が受けれます。障害はデリケートな問題なので聞きにくい部分も多いですが、障害者控除の話をすると、進んで書類の提出や申告に協力してくれます。
所得控除や税額控除は詳しく調べると「これも対象になるの?」と驚くほど多岐に渡るため、事務方も事前準備を怠らず、従業員に有効なアドバイスが出来るよう心掛けたいものです。